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ウルビーノのヴィーナス

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ウフィツィ美術館の至宝 ウルビーノのヴィーナス 古代からルネサンス、美の女神の系譜
国立西洋美術館 公式サイト
開催期間:2008年3月4日ー5月18日
主催:国立西洋美術館、イタリア文化財省/フィレンツェ文化財・美術館特別監督局、読売新聞社
サイズ:A4
ティツィアーノ <ウルビーノのヴィーナス>(部分) 1538年頃 ウフィツィ美術館



 そして隣の大画面に目を移すと、再び大きな感動で揺す振られました。ティツィアーノ生涯の最高傑作『ウルビーノのヴィナス』が、そこにありました。
 裸の全身を横たえ、消え入りそうな微笑を唇に残し、空想ではなく現実の世界に降りてきた美の神。とても五百年近い昔に描かれた絵だと信じることは不可能です。神話の世界にあるものを、まのあたり現世で表現したことは、発表当時にあって、なお新鮮な驚きを見る人々に与えたことでしょう。
 もしティツィアーノが凡庸な画家だったら、この画題のどこかにデカダンスを加味して別の境地を見つけたかもしれません。そんな気がするモティーフを選んで、ティツィアーノはあの健全な精神の輝きを一歩もひるませることなく、いよいよいでて、このような力強い作品を世に残しました。
 ウフィツィ美術館には、有名なボティチェルリの『ヴィナスの誕生』があります。実物を見て、予想外にもぼくには何の感興もわいてきませんでした。ティツィアーノの生気の前で、それはあまりに人工的なつくられたる美しさに過ぎなく感じられました。
 『ウルビーノのヴィナス』には、生きた人間に対するリアリズムと、神的なるものに対するリアリズムが、互いに拮抗しつつも絵画的な調和を来す一境があります。優れた写実描写の基底に、万物肯定的な思想をもってはじめて生じる造形だと思います。 (原田治 『ぼくの美術帖』 みすず書房 2006年)

by ephemera-art | 2017-03-17 00:00 | 国立西洋美術館