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酒井抱一と江戸琳派の全貌

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生誕二五〇年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌
姫路市立美術館
開催期間:2011年8月30日-10月2日
主催:姫路市立美術館・神戸新聞社
サイズ:A4
表:酒井抱一 <夏秋草図屏風>(右隻)19世紀 東京国立博物館


 銀地に凛と描かれる夏秋の草花、涼気漂う水流。夏草は強い雨に打たれ、少ししなだれている。秋草は野分の強い風に翻り、紅葉した野葡萄の葉はまさに吹き飛ばされるところ。草花は屏風各隻のほぼ対角線状(ママ)に配され、余白はひんやりとした空気まで伝えている。平明で装飾的な琳派様式を基調にしながら、写生を生かした描写や、百合、昼顔、葛などの草花の起用、風雨を示唆する情景など、従来にない表現が新鮮に映る。簾越しの夏座敷のような床しい風情。薄の細い葉が重なり合い、花や銀地を透かし見のように見せている。
 この作品は当初、光琳の《風神雷神図屏風》の裏に描かれていた。近年、下絵や書付が発見され、制作当初より風神の裏に風になびく秋草、雷神の裏に雨に打たれる夏草、という構想だったことが確認された。天の鬼神の裏に地の草、金地に対し湿地と、抱一は尊敬する光琳の屏風の裏を手がけるに際し、さまざまな趣向を凝らしたのである。
 この屏風は一八二一年(文政四)から翌年にかけて、十一代将軍徳川家斉の父、一橋治済のために描かれた。一橋家と酒井家は屋舗が隣接し、この翌年には家斉の娘喜代姫の、酒井家への輿入れがきまる。また前年には治済の従一位昇進という慶事があった。つまり《夏秋草図屏風》は、酒井家から一橋家へ親交を深める手立てとして使われたことがうかがわれる。光琳の《風神雷神図屏風》の裏にこの絵が描かれた背景には、光琳への強い憧れが込められているばかりでなく、こうした政治的な要因も介在した。 (仲町啓子監修 『すぐわかる 琳派の美術』 東京美術 2004年)

by ephemera-art | 2019-06-27 00:00 | 姫路市立美術館